mao2 Alphabetical Order Recommended Vol.04 [CARTA]


年寄りのひや水

いしい しんじ
(作家・イラストレーター)

 

 おぼえているのは、ぼくの祖母が居間でオレンジジュースを飲んでいたことです。ぼくは五歳ほどだった。うまそうに喉をならす祖母に、気の利いたことをいおうとぼくはおもった、なので、
「なあ、としよりの冷や水やなあ」
 するとなんとしたことか、祖母はキッとぼくをにらみすえて、
「なにいうてんのや、阿呆!」
 といったのです。ぼくはおびえた。
 喉のかわいた老人が冷たい水をごくごくとのむ、ああよかったね、皺ものびるようだ、と、そういうふうなのんきな意味に、ぼくはこの諺を解釈していたのです。今更いくら謝ろうとしたって、祖母はとうにみえない煙になって、ぷかぷかどこかを漂っています。
  としよりの冷や水、とは、老人が年に似合わず、危なっかしいこと、差し出がましいことをする、という意味です。このことばに、祖母ほど似つかわしくないひとを、ぼくはほかに知りません。まったく、年端もいかないこどもが、差し出がましいことばづかいをするものではないですね。なにごとも、年相応がいちばんってことでしょう。

 

 老人に似合わない危ういことをするたとえ。また、老人が差し出たふるまいをすることをいったりします。このことわざを使うときにはくれぐれもご注意ください。

いしい しんじ
(作家・イラストレーター)
大阪出身、京都育ち。現在東京の浅草在住。著書『アムステルダムの犬』『とーきょー いしい あるき』(東京書籍)『その辺の問題』(中島らも共著 角川書店)『グレートピープル。ストレンジ。』(日之出出版)『ぶらんこ乗り』(理論社)などがある。お酒好き。メカおんち。最近の新刊は、『トリツカレ男』(ビリケン出版)、『人生を救え!』(町田 康共著 毎日新聞社)など。

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