mao2 Alphabetical Order Recommended Vol.04 [CARTA]


葦のずいから天井をのぞく

西川公子
(ライター)

葦について考えてみましょう。どうしてこのことわざに、葦なのか? 真ん中があいていて、先が見通せる植物ならば、竹でも葱でも蓮根でもよかったような気もしますよね。まず葦という字を調べました。葦ってヨシ? アシ? 漢和辞典を調べると、アシもヨシも同じ字で、呼び方が二通り。「あし」という音は「悪し」に通じるのでこの呼び方をやめ、正反対の「善(よ)し」と言いかえるようになったのです。だから「あし」と読んでも「よし」と読んでもどちらでもOK。わりといいかげんですね。

神話の時代の日本は、「葦原中国(あしはらなかつくに)」と呼ばれていました。葦がぼうぼうと生い茂る荒ぶれた未開の土地だったので、そう呼ばれました。古事記では、葦の船もでてきます。イザナキとイザナミが交わってできたいちばん最初の子ども、水蛭子(ひるこ)は、骨がなくてぐにゃぐにゃした失敗作だったので、葦で編んだ船に入れて流されました。葦は神話によく使われるモチーフだったのですね。

とはいえ、葦は日本だけでなく世界中に生息していた植物です。だから世界中に葦のモチーフやお話は多くあります。たとえばギリシアの有名なお話。ロバの耳をした王様の秘密を知った髪結いは、こらえきれずに「王様の耳はロバの耳」と穴にささやいて、土をかけてその秘密を埋めました。ところが、この秘密を埋めた場所に生えた葦が、「王様の耳はロバの耳〜」と風に吹かれるたびにいうので、秘密はみんなにばれてしまいました。実は葦はおしゃべりな植物なんでしょうか。旧約聖書では、葦の海と呼ばれる紅海で、モーセが海をまっぷたつに分ける奇跡を起こしました。これはセシル・B・デミル監督の映画『十戒』でおなじみですね。

さて、ことわざに戻ると、これは葦の髄(ずい・中心)のように細い隙間から大きな空を眺めて狭い見方をするという意味ですから、どうしても葦のような細〜い狭〜い芯の植物じゃないといけなかったんですね。これが「竹のずいから天井を眺める」だと、よく見えすぎていけない。だから葦。それに昔は、船だけでなく、古くからすだれや屋根、楽器、漢方薬とマルチに使われる素材。ことわざの生まれた時には生活の中の身近なものだったんでしょう。でもこのことわざ、いま普通に使うにはむずかしいですね。

 

 

 自分の狭い見識で、広い世界のことについて勝手な判断を下すこと。物の見方や考え方が狭いこと。一度、葦をさがしてのぞいてみてください。ほんとうに、見えないくらいに狭いから。

西川公子
(ライター)
マオマオネットの企画編集とライティング担当。OSD所属。ウェブ編集とコピー以外の仕事として、プレイステーションゲーム『L.S.D.』(アスミックエース)の原案、『東京惑星プラネトキオ』『リズムンフェイス』(アスミックエース)のシナリオなどがある。著作に10年分の夢日記をまとめた『Lovely Sweet Dream』(メディアファクトリー)。

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