第3回 マオマオネットインタビュー第1弾

 PiCaSSo (ピカソ) 小澤英生さん


マオマオネットでは、さまざまなジャンルで活躍していらっしゃるクリエーターの方々に毎月お話を伺っていきます。なにかをつくりあげるために、どんな風な考え方や過程を経ているのか、いろいろなものがカタチになるまでのプロセスに重点を置いて、ものづくりに関するお話を聞いていこうと考えています。 できあがった作品の側面や、裏側のこぼれ話なんかも聞いていけると楽しいですね。


さて、今回のマオマオネットインタビュー第1弾は、 ヘアースタイリストの小澤英生さんに登場していただきました。

小澤さんは、1年ほど前に原宿に、 ご自分のサロン『 PiCaSSo(ピカソ)』をオープンされたばかりです。

小澤さんのサロン『 PiCaSSo(ピカソ)』は、 竹下通りの喧噪から一歩裏通りを入ったところにあります。 美容室が並ぶこの通りの中でも、 オーベルジュのような雰囲気のある落ち着いた佇まいが目立ちます。

マオマオ取材チームがお店へ伺ったときには、 小澤さんが、お店の外に生い茂っているひまわりにお水を遣ってらっしゃるところでした。なんだか気持ちよさそうで、 開店前でリラックスしてらっしゃる小澤さんの人柄がのぞく一面でした。

店内に入ると、広いエントランスとよく磨かれた木のフロア、ゆったりした空間、ガラス張りの中庭などが 居心地のいい空気をつくりだしています。

店内には、小澤さんの作られたオブジェもいくつか 飾ってあります。

では、小澤さんにお話を伺ってみましょう。





●小澤さんがまず美容師になろうと思われたきっかけを教えていただけますか?

 高校を卒業するときに、まず資格がほしかったんですよね。で、なにを目指そうかと考えたときに、ちょうど友達のお姉さんで、ananなんかで活躍してらっしゃったヘアー&メイクの人がいたんです。「これからのメイクにはヘアーも必要だ」といわれて、それでまず美容専門学校へ行ってヘアーの勉強をしようと、山野愛子学園へ入学しました。

 

●その当時、男性で美容師を目指す人というのは、めずらしかったんじゃないでしょうか?

 そうですね、でも中学生の頃にぼくのカットをやってくれていた 美容師さんも男性でしたし。 ただ、父に美容師になりたいっていったら、「パーマ屋って、男がなるもんなのか?」 なんて言われちゃいましたいけどね。 昔は「パーマ屋」なんていわれてたんですよね。で、母が「この頃は男の人もなるもんなのよ」っていってくれたりして。 いまではまるで意識がちがいますが、当時はこんな風だったんですよ。

 

●女性を美しくさせる職業というものに興味があったんでしょうか?

 女性を見ていると形容詞が自然にでてくるんですよ。 まあるい、かわいい、やわらかい、って。それは、若い女性でも、お年を召した女性でも 年齢や外見に関係なく、 その人のイメージから いろいろな形容詞が浮かんでくる。インスパイアされるっていうのかな。自分のデザインの素(もと)って、そういう形容詞なんですよ。その形容詞を表現していくのが、 ヘアースタイルなんです。

 

●美容師以外の道は考えなかったんでしょうか?

 実は、彫金とか造形物をつくるのも好きだったので、 歯科技工士というのも考えてたんですよ。 歯科技工士も資格のある仕事じゃないですか。 最後までどちらにするか悩んだんですが、やはり、自分のつくったものが人目に触れる機会の 多い方が嬉しいなと思いまして、美容師にをとることに。ぼくは、思い立つと突っ走っちゃう、行動的なタイプなものですから。もう決めたらハンパなことはやりたくないぞと、一直線にそれに突っ走りましたね。

 

●美容学校を卒業すると、kakimoto armsに就職されたんですよね?

 ええ、就職するときに、「とにかくいい美容師になりたいので、やる気のあるいい先生を紹介してほしい」って学校の先生にお願いしました。ちょうどそのとき、 kakimoto armsの柿本栄三先生が、自由が丘に美容室をオープンされるときで、学校から紹介していただいてそこに参加させていただくことになりました。もうそのあとは、22年間ずっとがむしゃらにやらせてもらいましたね。

 

●美容師の仕事の楽しさってなんでしょうか?

 そのころは、ほとんど休みもをとらずに働いていたと みんなに驚かれるんですけど、ぼくがいちばん好きなのは仕事なんです。それ以外のことはみんな2番目。 ちょうど撮影の仕事も増え始めたころだったので、 お休みの日でも、撮影の仕事の助手がいるっていわれたら 率先して手をあげてやらせてもらっていましたね。 いつもなにか新しいことに触れていたかったし だから毎日が面白くてしょうがなかったですね。 仕事だからお休みの日も出勤するっていう考え方じゃないんですよね。 自分がやりたいから、好きだから、積極的にやる。 自分の好きなことに休みを使っているわけだから 疲れない。いや、それは肉体的には疲れますよ。でも精神的には疲れない。それはやっぱり、好きだから。 義務とか権利とか、そういうんじゃないんですよね。

● お話を伺っていると、 好きな仕事にのめり込んでいるという感じですが、 お仕事以外でお好きなことというのはなにかありますか?

 仕事が一番ですが、 もちろん夜遊びもしてましたよ。 クラブ遊びが好きだったころは、朝まで遊んで、それから サロンに入ったりもしてました。 いまは、ちょっと趣味が変わって、海へ行くのが好きですね。 それに、お店にもいくつかオブジェが飾ってありますが造形物をつくるのはいまでも変わらず好きです。

 

● なんだかものすごく忙しく、アグレッシブに生活してらっしゃるようですが、そうした他のこともすべて美容に生かされている訳でしょうか?

 仕事も遊びも、ぜんぶ好きなことだから、忙しくても無理しても 積極的にやっちゃうじゃないですか。 ぼくは、時間ってものすごく大切だと考えているんです。 だからクラブから朝帰りしても仕事に入る。 だって、仕事の方がもっと面白いんですから。 やりたいって思ってるんだから。

 だから、いまの若い人たちを見ていると、 ちょっとね、いったい何してるんだ?っていいたくなっちゃいます。 たとえば、せっかくサロンに入って働き始めたというのに なにかこの時間を大切に考えていないなって印象を受けるんですよね。 時間を浪費というか消費してるだけに見えるんです。 もっともっと自分の時間を積み重ねて、蓄積できる時間の使い方を しようよっていいたくなっちゃいますね。時間がもったいないよ。 自分のしたいこと、したくないこと、を見極めて、 自分の好きなことをやれば、時間って蓄積されていくんですよ。

 

● それはいまの美容師を目指している若い子にいえることですか?

 うん、全般的にそうなのかもしれないけれど。 いまの子って、 「自分は負けずぎらいなんです」っていうんですけど その負けず嫌いには、2種類あるんです。 ひとつは、負けることがいやで初めから競争しないタイプ。 もうひとつは、負けてもそれをバネにしてがむしゃらにやるタイプ。 いまは、前者の負けず嫌いが多いですね。 やらないで斜にかまえちゃうタイプ。 がんばればできるんだけどっていっても、 結局なにもできないってことじゃないですか。

 

●今回独立されて、やはりそういう観点で スタッフを育てていこうと考えてらっしゃる訳でしょうか?

 ええ。美容は、技術はもちろん、商品が人ですからね。 人=スタッフを育てるってことがとても大切です。

 まず、ぼくがこのサロンを始めたのは、 シンプルに仕事がしたいっていう気持ちからなんです。 ぼくはハサミを持ってお客様の髪を切っていきたいんだという シンプルな情熱がスタートでした。 で、ぼくという個人を核にして人を育てていきたいなあと。 いまいるスタッフたちと デザインの根っこの部分を共有して一緒にやっていきたいんですよ。 あれかわいいよねっていう好みや、形にならない感覚を みんなで共有していきたい。 美容だけじゃないと思いますが チームでやるっていうのは、そういう部分が とても大切ですからね。

 

●そういう面でなにか特別な指導方法とかあるんでしょうか?

 特別というわけではないですが、 練習なんかではスタッフには どんどん髪型をつくらせて あ、これいい、これだめって どんどん評価していきます。 モデルウィッグとかじゃなくて、 実際にヘアーモデルになってくれた女の子たちの髪型でね。 その子に合ってるか、いいか悪いか、 そういう感覚的な部分をキャッチボールして あえて判断していってるんです。 つくった本人もそれがいいか悪いかって 自分でいちばんよくわかっていますからね。 自分を信じてものをつくるっていうのが大切なんです。 数をこなしていくと、なにがいいか悪いかも 自分でわかってきますからね

 

●その教え方は、絵を描く勉強のデッサンの講評と同じですね。生徒たちのデッサンや色彩構成を、先生がまずいいかわるいかで評価していくという。でも、先生に選ばれた作品を見て、 生徒たちは自分で「ああこういうものがいいんだ」という感覚をつかむことができる。こういう勉強って、まったく理論ではなく、 感覚でつかんでいかないとどうしようもないものですしね。

 それが、同じセンスの共有ということだと思うんです。 同じ価値観を共有して、ものをつくっていく。 サロンはチームワークでもありますしね

●ものづくりの基本ですよね。小澤さんの中で、ものづくりの上で大切にしていらっしゃることってなんでしょうか?

 自分、ですよね。 ものをつくっていくには、絶対自分を信じるしかないんです。 出来上がったものが、いいか悪いかって 自分がいちばんよくわかってると思うんです。 絶対自分っていうのが明快な答えなんですから

 

●それは、お店のネーミングを考えられたときにもあったのだとか。

 お店のネーミングには、ものすごく悩みましたね。 まず、好きな形容詞から始めて、 好きなものの名前などを挙げていきましてね。 100個以上リストアップしましたね。 でもなんとなく、ぴんとこない。

 

●ネーミングって、悩みますよね。それが自分のお店の名前となるとなおさらそうでしょうね。

 で、次に好きなアーティストや曲名に、考えを広げていったんです。 ぼくが好きなアーティストは、 ダリやガウディといった生物的な曲線に特徴のある画家たち。 それにピカソだったんです。 で、 そうだ!ピカソだ!って

 

●ピカソは昔からお好きな作家だったのでしょうか?

 学生の頃にポスターハウスでバイトをしていたときにね、 お客様に、どの画家のどの作品のポスターをくださいって 聞かれたり注文されたりするので、すぐ対応できるように そこにあるポスターの画家と作品をぜんぶ覚えたんです。

 で、そのときにたまたま出会って大好きになったのが ピカソの晩年の作品で「ドンキホーテ」という作品だったんです。 これは、ピカソの作品とは思えないくらい 地味な墨絵のような作品なんですけど、これが大好きだったんです。

 

●ピカソは、実にいろいろな表現スタイルを経てきた作家ですよね。それに、絵画、彫刻、版画など、ほんとうにあらゆるジャンルでその才能を発揮していますし。小澤さん自身、なにかピカソの芸術性に惹かれるところがあったわけですね?

 あえていうなら、彼の2面性のような部分でしょうか。 アグレッシブな部分は、通じるところがありますかねえ。

 でもね、このお店のインテリアをやってくれたデザイナーに「ピカソ」にしようと思うんだけどといったら、う〜ん、このお店の雰囲気にちょっと合わないんじゃないかなあって いわれちゃいましてね。 ロゴデザインにもしにくいし。

 

●デザイナーの反対にあっちゃったわけですね。

 自分でもそうかなあと思ったんですが、 そのあと、夜中にひらめきましてね。 がばっと起きて、 ぼくのすきな曲線のフォルムを「ピカソ」という ロゴデザインに用いればいいんじゃないか、 まあるい文字にすればどうだろうって。 夜中にそれこそ、何時間もかけて、何枚も何枚も ピカソって文字を書きましてね。 翌日デザイナーにこんなイメージでいきたいんだけどって見せてみたんです。 で、デザイナーも、こういう曲線の感じならいけるよっていってくれて、いまのロゴデザインを作成してくれたんです。

●アーティストの名前をお店につけるというのは、 やはり固定観念もあるから大胆な発想ですが その部分を、独特のロゴデザインで払拭したわけですね。

 昔から、ガウディの曲線やまあるいフォルムというのに 無性に惹かれるところがあるんですよ。 ガウディの作品は、もう鳥肌がたつくらいに好きですね。 好きっていうのは、ほんとうに理由のないものなんです。 でも、自分の心の奥深くに確固としていて、存在していて、消えない。 そういう自分の中にある「好き」を大切にして、表現すること。 これは、とても大切なことだと思います

 

●それは、さきほどのお話の、ものをつくるには 自分を信じるしかないというところとつながってくるわけですね。

 自分を信じて、いいものをつくる。 それがイコール、お客様にも気に入られるものになるわけですからね。 毎日の仕事の中でも、やはり自分の中にある 「気持ちのいいフォルム」を表現できたときが いちばん楽しいです。 自分に気持ちのいいデザインを つくりたいじゃないですか。 そして、それがお客様に似合っている。 そういうことを、 日々のサロンワークの中で お客差といいコミュニケーションをとりながら 表現していければ、もう最高ですよね

 

○小澤 英生 Hideo Ozawa

KAKIMOTO ARMSにおいて、撮影(海外ロケを含む)やヘアショー、セミナーなど、さまざまな分野でデザイン活動を手がける。 1999年5月原宿フォンテーヌ通りにPiCaSSoをオープン。小澤英生の(個を核)としたデザインワークの拠点としてのサロンをコンセプトに、そこに集うスタッフの育成に重点を置き、現在に至る。 2000年より外部活動を再開し、セミナーや一般誌の撮影、業界誌などの活動を行っている。


PiCaSSo
〒150-0001 東京都渋谷区新宮前1-10-15
Tel & Fax.03-5414-2213

営業時間 月〜土 11:00a.m.〜9:00p.m.
     祝祭日 11:00a.m.〜6:00p.m. (受付終了)
定休日  火曜日


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