第7回 マオマオネットインタビュー第5弾

 RITZ  金井 豊さん


マオマオネットでは、さまざまなジャンルで活躍していらっしゃるクリエーターの方々に毎月お話を伺っていきます。なにかをつくりあげるために、どんな風な考え方や過程を経ているのか、いろいろなものがカタチになるまでのプロセスに重点を置いて、ものづくりに関するお話を聞いていこうと考えています。 できあがった作品の側面や、裏側のこぼれ話なんかも聞いていけると楽しいですね。





マオマオネット第5弾インタビューは、 ヘアーデザイナーであるRITZの金井豊さんをお迎えしました。

今回、取材に訪れた原宿にあるオフィスは、いわば、RITZの舞台裏。ここでは、スタッフとの打ち合わせ、DM、ポスターなど各種グラフィックのデザイン作業、経営に関わる会議などなど、RITZに関わるすべてのクリエイティブをコントロールしています。

金井さんは、RITZを、「美容という立場からアプローチする“ブランド”のひとつ」に位置づけています。そのためにも、総合的にプロデュースできる“デザインファクトリー”のシステムを整えていく必要があるそうです。

ヘアデザインというクリエイティブ・センスと、経営手腕の実力。そのバランスの取れた金井さんのパワーの秘密を、たっぷり教えてもらっちゃいましょう!


  

●さっそくなんですが、自分のことを何も知らない人に初めて会ったとき、まず、どんな風に自分を紹介しますか?

 難しいですねぇ。「RITZの金井です」って言うでしょうか…。でも、「美容師の金井です」とは言わないですね。僕は、RITZっていうのは、=美容室ではなくて、ひとつの“ブランド”だと考えていて、「RITZとは何ですか?」と聞かれたら、「美容室でもある、RITZというクリエイター集団です」と答えると思います。

●小さい頃は、どんな子どもでしたか?

 小学校くらいのことって、憶えてないですねぇ。僕、そういう昔のことって、すぐ忘れちゃうんです。ただ、中学2年の時には、「美容師になろう!」と思っていたので、この時点で人生決まってた、と言ってもいいでしょうね。

 

●それは、なにかきっかけがあったんですか?

 本屋さんで何か見ていたときに、男のヘアカタログみたいな本があったんですよ。そこでヘアアーティスト須賀勇介さん記事が載っていたんです。須賀さんの作品がスキかどうかという前に、まず、カッコイイなぁって思ったんですよね。その記事には、「日本とNYを股にかけて何万ドル!」みたいに書いてあって…。ああ、こういう生き方もあるんだって思って読んでみたら、彼は美容師だったんですよ。じゃ、これになろう! って思ったんです。

 

●ヘアデザイナーになろうと思う以前に、なにかクリエイティブなものをつくっていこうとする“衝動”みたいなものは、ありましたか?

 たぶん、僕、そういう才能ってないと思うんですよ。絵を描いたりとか、プラモデルをつくったりとか…。もうキライだったですから。今、うちの息子に「プラモデルつくって」って頼まれても、できません(笑) 図面を見ながら、なにかをつくるとかもできないし、細かいことをやると、指が震えるんですよ。手先が器用っていう能力は、もう全く、僕にはないですからねぇ。

●意外な感じがしますね。

 別に手先が不器用でも、美容師はできると思っていますし。才能がある・ないという問題より、スキかキライかだけの問題だと思っていますから。スキだから興味がある、興味があればスキっていう…。
 例えば、本を読むにしても、「建築の本を見てインスピレーションを感じますか?」と聞かれたって、僕はなにも感じない。ファッション誌を見て感じるかと言えば、感じる作品もあるし、そうでないのもある。スキ・キライは、はっきりしていると思いますよ。
 それに、できないものはやりたくない。嫌いなモノに対して無理にアプローチするような努力はしないんです。できないものは、俺の才能じゃないからダメって、もう決めてしまっているんです。沢山テリトリーをつくっていくのではなくて、自分の中でコレって決めた得意なモノだけをやっていく、ってことですよね。。

 

●でも、美容師には細かい技術も要求されると思うんですが…。その点はどうカバーされたんですか?

 きっと、ある一定の時期までは苦労したと思うんですよね。例えば、ワインディングがヘタクソだったりとか…。ブロー、カット、ピンパーマ、そういった美容師としての必要最低限の技術。いわば、国家試験用の技術、ですよね。それを修得するのは、けっこう苦労したんですよ。でも、何回もやっているうちにできるようになりましたし、完璧じゃなくてもいいわけですから。それに、こういった基本は、プロの美容師になったときには、できて当たり前。手先が器用だろうが不器用だろうが、関係ないんですよ。

 

●万が一、今の仕事を選ばず、美容師にならなかったら、どんな職業についていましたか?

 うーん。今の道をやってないっていうのは、ありえないですね。迷い、とかも全然なかったですから。でも、「今の時点で、何になりたいですか?」と聞かれたら、「フォトグラファー」とか、「三線(さんしん)※の奏者になりたい」とか答えるかな。この間、沖縄に行ったときに三線を買ったんですよ。これ1本もって、NYのセントラルパークで弾いてたら、カッコイイでしょうね(笑) でも、美容の道を辞めるってことは、考えられないです。

※三線:さんしん:沖縄の撥弦楽器。三味線のもとになった楽器で、胴には蛇の皮を張る。撥ばちは用いず、人差し指に義甲をはめて弾く。

●すでに、フォトグラファーの仕事は、始めていると聞いてますが…。

 はい、2年くらい前からですか。ポッと、思いつきで始めたんですよ。アメリカに行ったときに、なんとなく80枚くらいかな、撮影してきたんだけど、どうしようかなと思っていて…。
 もともと、僕、趣味ってないんですよ。だから、じゃぁ趣味的に、みんなの作品を撮ってあげればいいかなと思って、始めたらけっこうハマってしまったんです。もしかしたら、俺って才能あるかもって思い始めちゃって…。

 

●ヘアメイクとフォトグラファー、やっているときの“感覚の違い”みたいなものってありますか?

 カメラをやるときに、ヘアはやりたくないんですよ。2つのことを同時にやりたくないんですね。よく、ヘア・メイクって言いますけど、僕は、もうメイクは辞めたんです。それは、ヘアに集中したいから。それと同じ理由で、ひとつのビジュアルをつくるのに、いくつかの役割があるとしたら、そのなかのひとつに集中したいという気持がありますね。

 

●フォトグラファーとして撮影しているときに、人の仕上げたスタイルが気になってしまう、ということはないですか?

 うーん、その人の感性だからね。例えば、自分がスタイルをつくったときでも、フォトグラファーがファインダー越しに覗いたスタイルっていうのは、自分が思っていたのとは違ったものだったりするんですよ。だから、他の人がつくったときに、あっち側は気になるけど、こっちがカッコよければいいじゃんって感じでやってます。全体のバランスなんかは、アドバイスもできると思います。
 でも、RITZのスタッフ同士だからできることです。あくまで趣味でやってることで、プロにはなりたくないですよ。

●NYにしばらく住んでいたそうですが、そのいきさつは?

 初めは、NYにいる須賀さんの所で働きたい、という気持があったので行きました。そこで働いて、一度戻ってきたんですけど、ほら、日本人って海外に出たがるじゃないですか。どうせだったら、NYにRITZをつくりたいって思ったんです。今度は、アーティスト扱いのグリーンカードもちゃんと取って、再び、NYへ行っちゃったんですよ。
 でも、日本で美容ブームが始まってきた。今、美容をやるなら、NYより日本でしょ、ということで帰ってきたわけです。

 

●NY以外にも、海外旅行はよく行きますか?

 そうですね。でも、もともと、旅って、あんまりスキじゃないんですよ。じゃぁ何しに海外に出掛けていくのかといえば、じっくり物事を考えに行くためなんです。どうしても日本にいると、電話が鳴ったり、スケジュールがつまってきてしまったりしてしまうので…。
 根本的に大切なことは何かというとき、まず第一にRITZの経営がありますよね。でも、経営っているのはクリエイティブではなくて、方法論だと僕は思っているです。その方法論を考えるには、電話のないところで、集中して考える時間がどうしても必要になってくる。だから、そうした時間が必要だなと思えば、スケジュールのやりくりをして出掛けてしまいます。

 

●ということは、充電といっても経営のためのなんですね?

 そうですね。経済の本とかを20冊くらい持っていって、ばぁっと読むわけですね。出掛けるところは、バリ、ハワイ、ロス…。NYには、読書やものを考えるためには行かないですね。子どもと奥さんを連れていかなくちゃいかないから、危険がなくて、放っておいても遊べるようなリゾート地になっちゃうんですよ(笑)

●経営者の立場では、どんなことをお考えですか?

 経営することの難しさは、いつも感じてます。でも、これを克服していかないとね。これだけ、美容の世界が大きくなってきているんですから、銀行の人にも立場を認めてもらわなくてはならないし、それなりに結果も出して行かなくてはいけないですよ。今までは、なんとなく流行ってきちゃったわけですけど、これだけサロンも増えてしまったわけですから、「サロンを出したら必ず成功させていく」という方法論を考えていかなくてはいけないんです。
 まず、良い人材を育てるシステムを考えなくてはいけないでしょう。一生懸命やれば流行るということではないから。合理的なやり方を、カラダを使わず、頭を使って、どこまで考えられるかですよね。もう、考えていくことが、自分の趣味になっちゃってますね。

 意外に思うかもしれませんが、僕は、車を運転しないんです。なぜかというと、僕は、今、RITZのことを120%考えて起動しているのに、もし、事故を起こしてしまったら…。被害者のことで頭がいっぱいになって、90%以上の思考を、そちらに持ってかれてしまうじゃないですか。残り10%で、RITZを動かすことになったら、完全にRITZはストップしてしまいます。だから、僕は自分で車を運転しないと決めているんです。
 乗りたいと思いますよ、バイクとかね、いいですよね。でも、本来、自分がやりたいことはRITZなんだからって、あえてそこは押さえています。すべて願いが叶ってしまったら、おかしいと思うんです。アレも欲しい、コレも欲しいというのは、僕にとっては贅沢に感じるんですよ。
 だから、とにかく今はやらない。でも、裏返せば、RITZを辞めたときにはやりますよ、ってことなんです。とにかく今は、RITZを伸ばすことが第一。これしかないですね。

 

●ス、スゴイですね…。楽しいですか?

 ゼンッゼン楽しいですね。それで、家に帰って、三線をビンビビンって弾くわけですよ(笑) 音色がね、けっこう心地イイんですよ。津軽三味線は難しいんでしょうけど、三線ならできるんじゃないかなと…。もともと、ベースをやってましたから弾けるかもって…。今「島唄」を練習してます。日本の文化って、とくに音楽がスゴイなって思ってるんですよ。

●金井さんにとって、大きく影響を受けた存在って、いらっしゃいますか?

 うーん、植え付けられたのは、うちの親父ですかね。「おまえは商売人の子どもなんだから」って言われて育ちましたから。実家は、お茶屋さんなんです。で、朝から親父が、お札にアイロンをかけているんですよ。「お客さんにはピン札を出さなきゃいけない」ってね。そういう環境で育ってきてますから、小さいときにはわからなかったですけど、その感じって、今ではよくわかりますよ。

 

●最近は、どんな活動を中心に?

 今日は、マネジメントのことをたくさん話しましたけど、これからは、サロンに立つ時間をもっと増やしていきたいと思っているんですよ。僕くらいの年齢になると、ハサミをおいて、経営一本に入って行かれる方も多いと思うんですけど。僕の場合はそうじゃなくって、雑誌に作品を発表したり、スタッフを育てるためのセミナーをしたり、1000部限定でRITZの本をつくったり…と、他の仕事が多すぎて、サロンに立つ時間がとれないって実状があったんです。
 ですから、今まで週末だけになっていたサロンワークを、最近は、木、金、土、日に増やしたんです。今のところ、平日はまだ余裕がありますから、DMで、どんどん告知していこうと思っています。やっぱりサロンに立たないと、今の状況がわからなくなってしまいますからね。バランス良くやっていきたいです。

 

●未来の人生設計は、どんな風になっていますか?

 2010年までに、RITZを15店舗にします。これは、できると思っているんですけど、そのためには、自分と同じスタンスでものを考える人材を育てていかなくてはいけないなと思っています。
 でも、個人的には、あと15年で美容師は辞めようと思っています。52歳。引退後は、ハワイに住みます(笑) 今のペースで続けていると、それ以上は体力が持たないと思うんですよ、だから、そこで辞めないと…。
 きっと、その頃は時代も違っていると思うんで、今と同じ考え方は通用しないでしょう。自分とは全然違う環境で育ってきた今の中学生たちが、社会人になるわけですから。かといって、次世代に迎合して、自分の貫いてきた生き方を変えてしまうのも嫌だし…。そうなったら、RITZの経営も新しい時代の人たちに、すんなり渡していくほうがいいんじゃないかなと思っているんです。そしたら、大手を振ってハーレーに乗りますよ(笑)

インタビュー 佐藤 理
文      松浦央果


○金井 豊 Yutaka Kanai

 ヘアデザイナー。(有)AT RICH代表取締役およびRITZ SALONオーナー。1963年生まれ。1992年AT RICH設立とともに下北沢にRITZオープン。1996年、米国・グリーンカードを取得。活動拠点をニューヨークに移す。1998年帰国後はサロン開発に尽力。現在、サロンワークの傍ら、セミナー、講習活動、専門誌、一般誌、広告撮影などの活動の他、リッツデザインファクトリーを立ち上げ、フォトグラファーとしても活躍中。




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