UP DATE:2001.4.27
 
今、活躍中のヘア・アーティストに、妙に気になるアノコトや、ちょっと違うゾとひっかかるソノコトを、大胆にきいてしまおう! というコーナーです。

  マオマオネット インタビュー第9弾
茂木 正行 Masayuki Mogi
ロンドンのヴィダル・サスーンでアーティスティック・ディレクターを務め、コレクション、ヘアショー、CM、雑誌など、世界各国で活躍した後、“ハズシ”のコンセプトで美容界に一大ムーブメントを巻き起こした“boy”の茂木正行さん。インタビューでは、顔を覆ってだまりこくったかと思えば、次の瞬間には弾けたように話しだすエキセントリックなお茶目さんでした

text by ohka matsuura


現代アートの“笑い”
思わず「うふっ」とさせてくれる“抜き”の美意識

 

 

 現代アートが好きなんです。アート作品を見ていると、思わず「うふっ」となって、「アハハハ。そうだよ、そうそう」とうなずいてしまう。まるで、作品が「笑ってよ」と言っているようで、作家たちが自分なりの“笑い”を提示しているのを感じます。僕は、そうした、アートに含まれている“笑い”が好きなんです。

 でも、初めは、僕もわからなかったんですよ。息子と一緒に、イギリスの美術館やギャラリーをまわったんですが、作品を見終わって出てくるとき、息子は「ネッ!」って言うんです。まるで、目配せでもするみたいに。でも、僕にしてみれば、なにが一体「ネッ」なんだ? と、大疑問の連続でした。

 ピカソやゴッホなど、昔からあるなじみのものに対しては、ステキだな、可愛いな、色がキレイ、感情がでてる、なんていう風に、自分なりの尺度をもって見ることはできたんですが。現代アートと呼ばれてるヘンテコなものたちに対して、それまでの僕は“感じる”ことができなかったんです。でも、何日か息子と一緒に見たり、一人で眺めたりしているうちに、‘あ〜、こんな感じなのかな〜’と自分自身が“感じはじめた”

 息子に連れ回されるようにして見ていた作品というのは、ただ、木が積み重ねてあるとか、洋服が2枚並んでいるだけ、とかなんです。例えば、その2枚の洋服をじっと眺めていると、片方の服だけに穴が開いている。「なんで穴があいているわけ?」とたずねると、「鉄砲で撃たれて穴が開いているんだよ。‘1人だけ撃たれて死んでしまった’そんな現実って、ありそうじゃない?」っていう返事。

 うーん、そうか。一人が、突然、ダーンッと撃たれた…。でも、その瞬間、隣の女性はきれいなネックレスを揺らしながら、まだ楽しげに微笑んでる…、そんな光景の一瞬が頭をよぎる。だけど、現実の目の前には、中身不在の空の服だけしか並んでいないんだ。すると、「そんな物語を想像したでしょ?」っていう作者の声がきこえてきそうになる。そして僕は、やられたなって気分で、「うふっ」と笑ってしまうワケだ。最近では、「笑いながら、なんにでもOKといえるのが、モダン・アートじゃないかな?」なんてアート談義をするようにもなったよ。

 今、とくに気に入っているのは、アニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)というインドのアーティスト。例えば、彼のつくった、この‘穴’の前に立ってみる。いかにも‘穴’なんだけれど、そこに立っていると、自分の後ろにも穴があって、宇宙空間を漂っているような、まるで人生の流れにあらためて立っているような気分になる。それこそ、すべてがわかった! みたいな気になっちゃう。そこで、なかなかコイツおもしろいなって思っちゃうんです。

 よく、世界中のいろんな政治家やお金持ちの科学者、有名な方々の部屋がメディアを通して見ることができるでしょ。そこには、すごい量の本が並んでいて、コルビュジェかなんかのアートなイスが写ってる。なのにダサくしか見えないのは、どうしてなんだろう、って思ったことないかな? それは“笑い”がないからだと思う。部屋から湧き出る雰囲気、“抜き”が感じられないからなんだね。

 イケてるといったら、やっぱりアーティストだよ。人生ってアートしかない、“美意識”しかないって思う。経済的に成功して、いろんな旅をくり返して、最終的にどこか素敵な部屋に暮らし始めたとして。風呂場のタイルや、タオルの素材、照明の具合、壁の色、そんな日常に対しても、「うふっ」てなれるところまでいかないと、ヤバイって思うんだ。今までのアートって言うと、造形美だったり、その作者の生きざまだったり、わかりやすかったと思うけど、“笑い”ってなると、なかなか奥が深いなぁって感じで、ますますアートっていいな、って思ってしまうね

 

ニセモノなのに本物っぽくみせているコト 超イケてないのは“戦争”だ!


 

 

 “戦争”は、“笑い”から一番遠いところにあるもの。戦争はやめよう! とみんなが本気で思えば、なくすことだってできるんじゃないか、と僕は思う。ある哲学者に、“人生は、挑戦と応戦”という言葉があるんだけど、僕は、挑戦して笑い、応戦して笑い、みたいな人生が一番イイと思ってる。でも、戦争は、その言葉の根本の、最も低いところにあるものという気がする。

 聞いた話で恐縮ですが、人身売買の根底にあるのは臓器売買なんだそうです。お金持ちの子どもが横たわる部屋のとなりで、臓器を取り出されて殺される子どもがいる。そう考えただけで、身の毛がよだつほど、怖いと思いませんか? その何千倍も怖いと感じるのが“戦争”なんです。

 僕は、美容を通して“本物の人生”をつくりたいんですよ。でも、それを実行するのは、けっこうヤバイ。日本って国は、“本物の人生”をやりづらくする国だから。みんな、それに気がつかないで、エヘラヘラとやっているけど、本当にそれで楽しいのかな? シビアな時間を意識しないと、本当の“笑い”は生まれないゾ。

 最近、実は、ひどいものを体験してしまったんだ。レストランに結婚式場みたいなのをつくって、ワケわかんない十字架かけて、慣れ親しんでもいない賛美歌をバックに新郎新婦ご入場〜なんていっているものに参列してしまった!(笑) もう、何百万円もお金をかけて、真剣に儀式めいたことをやっているんだから。こんなウソっぽいものはダメですよ。これが日本の文化なんだと思ったら、苦しい世界だなぁ、と情けなくなってしまったよ。

 僕が、ある中年の独身女性の髪を切るとするよね。でも、これから帰る彼女の部屋がカッコイイとは、なかなか想像できないんだ。外国なら、外観がボロくても、けっこうカッコよく住むことは可能と思うけど、日本の場合そういうことにちょっと不慣れで、楽しむゆとりがないのかな、きっと彼女も一所懸命働いて国に税金払っているだろうにさ。日本って、そういう国なんだよ。国民は、真綿で首を絞められているようなものなんだもの。今、日本は、なんとなく元気がなかったり、ニセモノに踊らされたりで、海外での信用も今ひとつ…。

 でも、こんなことを、いろんな人と考えたり、アレコレ話したりできるのは、医者でも、弁護士でもない、美容師だから。つまり、それくらい、さまざまことに興味をもって、人生すべてをそそぎ込めるのが美容の世界。きちんとしたお料理も、旅のエッセイも、建築の話しも、なんだって吸収して栄養にして広げていける最高の職業だと思っています。

 だから、これから美容の世界は、メディアを持って進んでいかないとなと思って、『+ING[PLUSING]』という新しい美容雑誌をつくりました。ニセモノじゃない本物の美容の世界で、美容師はいろんなことができるし、こんなことも考えているという世界観を、美容師どうしだけじゃなく親兄弟、誰にでも伝えられるような雑誌にしたいです。

 戦争がヤバイとなったら取材に飛んで、都市計画がまずいと思ったら都知事と対談できるような。そして、日活ロマンポルノ特集とか、入れ墨特集とか、なんでもあり。いろんな人に読んでもらえる雑誌にしたいな。そして、もしも、自分の息子が美容の世界へ進みたいと考えたとき、反対しちゃいけないって親が思えるような、そんなコトを感じてもらえる雑誌にしたい。だから、本を売って儲けようなんて、全然思っていなくて、できるだけつづけられるよう、努力します!



10年後はね、大ウソツキになるよ。だって、僕ってスゴイまじめなんだ。だから10年後は大ウソツキになるしかない(笑)(2001年4月)

 

Msayuki Mogi's Works

今春創刊する雑誌[+ing]表紙

5/8に行われるのボーイライブの
フライヤー

KANA
PelicanGirls
AI
KANA
 

 

○茂木 正行 Masayuki Mogi

 1975年、ロンドンのヴィダル・サスーンでアーティスティック・ディレクターに就任。ヨーロピアン・アーティスティック・ティームとして各国で活躍。1978年、バーリントンズ結成に参加。ヘアショー、ティーチインから雑誌、映画、CMなど多岐にわたる仕事で世界中をまわる。1983年、星名陽子と共に帰国し、東京・青山に“boy”をオープン。新しい・概念のカットを本格的に追求し、“ハズシ”の土台をつくる。1988年、渡仏。パリを拠点にパリコレクションはじめ雑誌やCM活動に従事。1990年帰国。1992年、東京・代官山に“boy bis”をオープン。1994年、“ハズシ”を完成させ、本格的なデモンストレーション活動に入る。画家、写真家、舞踏家、詩人らと交流を深め、積極的な創作活動を開始する。書籍に、写真集『HAZUSHI』(1997年 新美容出版)がある。2001年5月に、新しい美容雑誌『+ING[PLUSING]』(ピーツーピーネットワーク出版)を創刊、次号は8月に出版予定。

 

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