2002/05/07


とかちニスト 後藤健市

北海道の十勝をベースに、さまざまな活動を展開中の後藤健市さんからの北の情報便。「こんなところで生きていて」「こんなことをやっていて」「そしてこんなことをやりたいんだけど」「みんなどうだい一緒にやらんかい?」という、アイデアいっぱいの後藤さんの日々のお話です。とかち日記を通して、十勝についてもよく知ってほしいな。

第9回:十勝の元気のもと


今年の夏に新たな農業観光の企画のトライアルをする小麦畑。
畑の奥に見えるのは日高山脈のポロシリ岳です。

 ゴールデンウィークが終わり、十勝もすっかり春らしくなってきた。桜もすでに散り気味。例年だとゴールデンウィーク後に桜が咲くから、やはり2週間ほど早い。青く澄みきった青空の下、十勝平野に広がる畑では今年も命を育む作業が始まった。赤や青のトラクターが広い畑を走りまわり土を耕している。いも、豆、とうもろこし、などなど。今から収穫の秋が楽しみだ。

 十勝は北海道の中でも元気なまちだとよく言われるが、その元気のもとはどこにあるのか。俺の考え(俺だけの特別な考えということでもないが)では、その理由の第一は天気。十勝は日本でも1,2位を争う日照時間の長い地域である。青空が広がり太陽の光が大地いっぱいに降り注いでいるだけで人は元気になれる。

 10年程前に米国のハイテクベンチャー発生の地シリコンバレーのマウンテンビューという町に行った。そこで一旗挙げようと頑張っている高校時代の友人を訪ねたのだが、それまで勤めていたベル研究所(米国)を休職し、たった一人でそこに移り住んだ彼にとって、天気がいいことが何よりの助けになっているといことを話してくれた。

 仕事が上手くいかなかったときも、天気がいいと何となく気が晴れる。もう一度頑張ろうという気になれるとのこと。確かにその通りだと思った。ということで、十勝の元気は天気がいいからというのが一番の理由。


小麦畑の横にあるシカラバ並木
今は草が生えているようにしか見えませんが
6月には小麦らしくなり、7月中には黄金色になり、収穫の時を迎えます。


 そして二番目は作物が育っているからだと俺は思っている。十勝平野の広大な畑に植えられたさまざまな種が芽を出し、花を咲かせ、実を結ぶ。人間の数を遥かに越えた植物の命が、太陽の光を受け、空気と水と土からさまざまな栄養分を吸収しながら元気に育っているのである。

 その植物の元気が十勝の元気だ。もし十勝平野が広大な荒野や砂漠になってしまったら、十勝(人)の元気はその源を失い、勢いのないものになるだろう。

 とは言え、オゾンホールの問題が深刻になってきている今、天気がいいことを喜んでばかりいられなくなってしまった。人間は愚かだということを忘れてしまうからこんなことになる。もっと謙虚にならんといけない。

 愚かと言えば、「つくる」ことから遠ざかってしまったことが一番かもしれない。作物をつくる、食事をつくる、道具をつくる、服をつくる、仲間をつくる。この「つくる」という行為こそが私たちが人間であることの証ではないだろうか。

 テレビで実験をしていたが、筒の中の食べ物を取るのに棒(道具)を使うのはサルでもやる。石をつかうぐらいのことはカラスでもやる。しかし彼らは道具を作りはしない。そこにあるものを使うだけである。

 自分が食べるものを自分でつくる。自分が着るものを自分でつくる。ということが当たり前だった時代はすでに終わり、人はつくることから遠ざかり、考え、動き、そして食べるだけの動物になっている。

 頭を使う人間が上で、身体を動かす人間が下。いつの間にかそんな社会になってしまっている。頭を使って金を稼ぎ、その金で服を買い、食事をする。自分ではつくることをしないし、つくらないこと(その立場にいること)を誇りに思っている。つくるという作業は貧しいものがやることだとすら思っているのではないだろうか。

 でも、本当にこれでいいのか。俺は、人間の心の中にはつくるという行為でしか埋められない穴があると思う。いくら高級な服を着ようが、いくら高い食事をしようが、その穴は埋められない。お金をいくら使っても、物をいくら持ってみても、その穴を埋めることはできないのだ。

 何でもいいから「つくる」ということを自分でやってみて欲しい。そうすれば、今まで埋めることのできなかった心の中の穴が埋まってくる。そこから本当の豊かさが感じられるようになってくるはずだ。

 最近はテレビ番組でも「つくる」ことを取り上げたものが多くなってきた。しかし、それを見ている我々は、つくっているところを見ていることで疑似体験したような気になり、情報で心の穴を埋めようとしている。これも情報肥満の1つの症状だろう。

 頭(脳)は情報でごまかすことが可能だが、心はそうはいかない。ごまかしているとそのうち壊れてしまう。心はとても脆い。だからこそ大切にしなきゃだめなんだ。皆の心は大丈夫だろうか。大切にしているだろうか。


契約栽培用の畑


 21世紀は文化の時代。十勝もこれまで以上に食文化を大切にしていかなければならないと思っている。そこで、今年は地元の農家とチームを組み、4反程(1200坪)ほどの畑で自分たちでリスクを負って健康野菜作りをしようという企画を立てている。

 植える野菜は、とうもころし、枝豆(大豆)、じゃがいも、かぼちゃ。一組年間2万円をこの畑に先行投資し、出来上がったものを送ってもらう。できた野菜を買うのではなく、つくることに参加するのがこの活動の主旨だから、天候によってはちょっとしか収穫できないこともある。しかし、このリスクを背負うことこそが作物が育つということにかかわることだと思う。

 スーパーのチラシを見て値段の安さを気にするのではなく、作物の生育そのものに気を配る。植物にとって雨は天の恵みである。ふだんはうっとうしいとしか思わない雨だが、作物を育てていると心から感謝できてしまう。その雨も何日も続くとまた心配になり、日照時間が少ないこともまた心配になる。

 気温にしても、自分にとって快適かどうかという判断ではなく、植物にとって適度な温度なのかどうかが心配になる。俺たちが食べている野菜に命があり、命があるからこそ種が芽を出し、花を咲かせ、実を結ぶということを頭(知識)ではなく心で感じることができる。

 インターネットで畑の様子なんかも見せながらやっていきたいと思っているが、今年は初年度なので50名程度でやっていく予定。参加したい、もしくはもっと詳しく知りたいという人は俺に問い合わせてくれたらいい。

 もちろん、インターネットで見たり、送られてきた食べ物を味わうだけでなく、都合をつけて十勝に足を運び、自分の畑に足を運び、畑仕事をするのもいいだろう。採りたての「とうもろこし」や「えだ豆」の味は格別である。一度食べたら忘れられない。

 ちなみに十勝には日本に1箇所、世界に2箇所しかないと言われている植物性の温泉(モール温泉)がある。この温泉に浸かると肌がつるつるになるということから、美人の湯とも呼ばれている。

 話はあちこちに飛んでしまったが、「つくる」ということをぜひ大切にして欲しい。


とかちニスト 後藤健市

【PROFILE】
北海道の中でも北海道らしいと言われている「十勝」をベースに、
福祉・教育・ビジネス・まちづくりとさまざまな活動に取り組んでいる。
変革の時代はチャンスの時代。IT時代はチャンスの時代。
自らの地域を知ることから新たな地域づくりに取り組み、
さらに新たなビジネスを生み出していきたいと日夜奮闘中。
思いついたらすぐ行動。
下手な鉄砲を撃ちつづけているが玉はなかなかあたらない。
「かに」のレストランをスタートさせたり、
話題の「北の屋台」に出店したりと21世紀もエネルギー全開!
 福祉・教育分野では「ぴゅあマインドプログラム」
(心の気づきのプログラム)を開発し、
全国の企業や学校で展開中。

【URL
社会福祉法人 ほく・てん
http://www.abix.co.jp/tenji/main.html

【e-mail address】
kgoto@hokuten.com