2003/07/22



絵 ヒロ杉山 / 文 西川公子

なんでも透視して、その背景の物語を探る『X-RAY レントゲン劇場』は、お題→絵を書く→文をつける、という方式で進行中。お楽しみにね。 


010 クラゲリア

 海に浮かんだ小さな島に、小さい人たちが住んでいました。小さいけれども、白いあごひげなんかを生やしている人もいますし、三角帽子をかぶっている人もいます。年を取っているのか、若いのか、ちょっと見た目ではわかりません。小さい人たちも、昔はけっこう活躍をしたものでした。森でお姫様を助けたこともありましたし、地下世界で金銀の財宝を守っていたこともありました。いろいろな冒険や心ときめく出来事がありました。それらの思い出はひとつひとつ、きちんと埃を払って、それぞれの抽斗にしまってあります。彼らの住んでいる家の壁全部、床から天井までびっちりと、思い出の詰まった抽斗が並んでいます。しかもすべての抽斗に、思い出の日付とタイトルが几帳面な文字で書き込まれていました。小さい人たちは全員が整理整頓好きでしたから、あたりまえといえばあたりまえなのですが。
 夕食の折りに、誰かひとりが「そういえば、昔森で暮らしていた頃は…」といいだせば、たちどころに誰かが「東の壁の右から二番の列の上から十五段目の抽斗!」と答えて、もうひとりがすぐさま抽斗を開けにいきます。そして、全員でそのときの思い出を初めから最後まで、意見を付け加えながらもう一度見直すのでした。誰かが「ここは、こうした方がよかったな」と言い出せば、みんなでその思い出を作り直すこともあります。みんなで訂正された思い出は、またきれいに埃を払って抽斗にしまい込まれます。小さい人たちの日課はまあ、そんなところでした。小さい人たちの心はすっかり年老いており、冒険にでていくような気持ちは消え失せていました。新しい思い出を作るということも面倒になっていたのでした。ただひとりの小さい人を除いては。

 ただひとりのいちばん年老いた小さい人は、自分だけの抽斗を隠し持っていました。他の抽斗の使い古された思い出など、もうこの小さい人にはどうでもいいことでした。自分の抽斗では、思い出ではなく、いま現在のことが進行していました。そこでは、小さな人たちが住んでいる島は、深海を漂うクラゲの中にあって、クラゲリアと呼ばれています。小さな人たちはそのことを知らないで、クラゲの中に住んでいます。ときどき、巨大な蛸や巨大なイカが光りながら、クラゲリアの横をかすめるように通り過ぎていきます。波のまにまに漂うクラゲリア。そんなクラゲリアの抽斗を夜ごとに見ながら、年老いた人はふわふわと眠りに就くのでした。

Copyright (C)2003 Hiro Sugiyama, Hiroko Nishikawa. All right reserved.



ヒロ 杉山
(イラストレーター)


【PROFILE】

1962年 東京生まれ。東洋美術学校卒業後、湯村輝彦氏に師事。87年 谷田一郎氏と“近代芸術集団”結成。97年エンライトメント設立。99年フリーペーパー「TRACK」を創刊し、NY、パリ、ロンドンなど世界8都市へ発信。2000年フリーペーパー「ディスプレイ」創刊。パリ、コレットにて個展。88年JACA展銅賞、91年ザ・チョイス展大賞など受賞多数。



西川 公子
(ライター)


【PROFILE】

マオマオネットの企画編集とライティング担当。OSD所属。ウェブ編集とコピー以外の仕事として、プレイステーションゲーム『L.S.D.』(アスミックエース)の原案、『東京惑星プラネトキオ』『リズムンフェイス』(アスミックエース)のシナリオなどがある。著作に10年分の夢日記をまとめた『Lovely Sweet Dream』(メディアファクトリー)。